ウイスキーやジンを足がけとした洋酒ブームを追いかけるように、Japanese Spirits(=蒸留酒)としての「本格焼酎」への関心が高まっている。
これまで国内市場においては居酒屋での水割りなどいわば「庶民の味」として、日本酒や洋酒と比べ高級感のイメージから離れていた焼酎。しかし今日、ボジョレーのように新酒がフィーチャーされるほか、本格バーにおいてジンやウォッカと同様にカクテルのベースに使われ始めている。
そうした機運もあり、11月12日、虎ノ門の人気ホテルEDITIONのメインバー、GOLD BARにてミクソロジストセミナーが開催された。
焼酎のイベントでありながら、パネラーを務めるのは意外にもアメリカで活躍する5名のミクソロジストたち。講演タイトルは「海外トップバーテンダーからみた本格焼酎の魅力」だ。
ミクソロジーとは一般的に、カクテルの既成概念にとらわれず新たな味・価値を生み出そうというスタイルを指す言葉。
セミナーを受ける面々もまた、日本を代表する名店バーから集った数十名のバーテンダーたち。
セミナーとカクテルパーティーの2部構成で展開されるこの日、日本のカクテルカルチャーにおける重要なポジションとなるに違いない。
パネラーは下記の5名だ。(写真:セミナーパンフレットより引用)
Don Lee
ニューヨーク在住
マンハッタンで最も有名なバーの1つ、PDTのヘッドバーテンダーにして「ベーコンバーボン」の生みの親。業界のレオナルドダヴィンチと呼ばれており、現在はバーテンダー教育者として様々なプロジェクトに携わる。
Chris Bostick
オースティン在住、バー Half Step ヘッドバーテンダー
フレーバーとバランスの技に定評があり、LAにてカクテルのプロセスと混合率を徹底的に研究。Half Stepは氷のphレベルまで確認する老舗として君臨し、クリス氏はオーナー兼音楽家として活躍する。
Julia Momose
シカゴ在住、バー Kumiko オーナーバーテンダー
日本で生まれ育ち、米国アイビーリーグのコーネル大へ進学後、バー業界へ飛び込む。シカゴのバーを経て、2018年にバークミコをオープン。ワールドベスト100をはじめ数々の賞を受賞する。
Nikola Nikoletic
ニューヨーク在住、バー Patent Pending ヘッドバーテンダー
Patent Pendingは現在最も予約の取れないスピークイージーのバーとして業界をリード。ニコラ氏は数々のカクテルコンテストで優勝した経歴をもつ。
Takuma Watanabe
ニューヨーク在住、バー Martiny's オーナーバーテンダー
Angels Shareのヘッドバーテンダーを経て独立。今春オープンしたMartiny'sは150年前の馬小屋を改装したという珍しい一軒家型の店舗で、その贅沢な空間はオープン直後より長蛇の列をなす人気ぶりとなっている。
この日の基調講演とも言えるドン・リーさんによるセミナーは、彼の独創的なミクソロジーに本格焼酎がどう活かされるかを伝えるもの。
代表作「ベーコンバーボン」は、その名の通りベーコンの脂をバーボンウイスキーにインフュージョンした作品。ファットウォッシング法と呼ばれるその製法は現在世界中で実践されている。
ベーコンバーボンにメープルシロップを加え作る彼のオールドファッションドは、アメリカンブレックファストを想起させるテーマで作られている。彼がカクテルで提供したいものは、そんな「誰もが懐かしむ記憶から、感情を揺さぶる」体験であることを丁寧に語った。
この日のために特別に用意してくれたのが、YAKIIMO(焼き芋) OLD-FASHIONEDのコアドリンク。ベーコンバーボンのスタイルにも表れるように、素材全ての味を感じられるオールドファッションドが彼の最も好きなカクテルとのことだ。
紫芋の焼き芋と麹を混ぜ抽出したシロップを使い、見た目も美しく仕上げたコアドリンク。いも焼酎の甘みを存分に感じられ、デザートのようなスイートな味わい。
まさに、秋風の中ホクホクと焼き芋を食べる情景の思い浮かぶ、筆者も大好きな味わいだった。
ドン・リーさんに続き、トークテーマは他4名のパネラーが奄美大島などの焼酎蔵元へ視察した体験談に。
蔵元の視察を通じて、焼酎の細やかさに感銘を受けたと話すのは、日本で生まれ育ち現在シカゴでバーを開いているジュリアさん。
他のパネリストも、日本の蔵元の独自性に驚きを示す。海外においてはウイスキーの蒸留器(ポットスチル)がどの蒸留所でも同じというケースがよく見られるそうなのだが、焼酎の蒸留ではそれぞれ個々で異なった蒸留器を用意しているのが一般的だ。日本のクラフトマンシップの熱さに、こちらまで誇らしい気分にさせられる。
それぞれのパネラーが、焼酎の蔵元での体験と合わせ、自らが用意してきた焼酎カクテルの概要を説明する。
この日唯一の日本人バーテンダーである渡邉琢磨さんは、話始めてまもなく「あれ、僕には通訳つかないんですね」と冗談めかして会場を和ます。彼がフィーチャーしたのは、カクテルのタイトルにもなっているリンゴ。この季節、マーケットに大量に並ぶリンゴだが、その甘みが焼酎の香りとよく調和するのだと語る。アップル・ブランデーやアップル・バーボンなど洋酒においてはしばしば用いられるリンゴだが、焼酎との組み合わせでどういった味わいとなるのか、カクテルパーティーへの期待が高まる。
照明が落とされ、美しいカクテルのサーブを合図にカクテルパーティーが開始される。
こちらのロックスタイルのカクテルは、GOLD BARが用意した九州4県の焼酎と、4種のシトラスを織り交ぜたスペシャルカクテルだ。
会場前方のバーカウンターで早速カクテルメイクが開始され、先ほどまで座学に真剣な表情を浮かべていた日本のバーテンダーたちも思わずハイテンションでカウンター前へ集う。やはり彼らにとってバーの空気こそがホームのようだ。
カクテルパーティーは前半、後半に分かれ2名ずつがオリジナルカクテルを振る舞う。
前半戦1人目のバーテンダーを務めるのはクリスさん。
奄美大島の黒糖焼酎「じょうご」とココナッツを力強くシェイクし、クラッシュアイスで仕上げたピニャコラーダ風のカクテル「AMAMI ISLAND COLADA」を作ってくれた。
同じく前半戦を務めたジュリアさんは、米焼酎にジンと日本酒を加えキレのある一杯に仕上げた。スマートな雰囲気の彼女らしい透明のカクテル。タイトルはSilver Martiniだ。
後半戦、バーテンダーが入れ替わり素敵な笑顔でカクテルメイクするニコラさん。彼のカクテルは、麦焼酎をベースとしたシトラス感満載の「SHIRO MARTINEZ」。
前半戦の2杯が素材感を強く残したライトな味わいであったのに対し、こちらは味わいがしっかりした仕上がりだ。
ラストを飾る琢磨さんのカクテルは「RINGO」。芋焼酎をベースに、テキーラとアップルシュラブで酸味を加えた日本人好みのSweet&Sourな味わい。焼酎独特の苦味が抑えられており、ビギナーにも勧めやすい一杯だ。
ドン・リーさんのコアドリンクを含めると6杯もの焼酎カクテルを飲んだことになるが、それぞれ全く異なるアプローチから焼酎の魅力にフォーカスするのが、ミクロソジストたちの個性と引き出しの多さ。その技量の高さに感心するばかりだ。
パーティーの終盤は、ニコラさんと琢磨さんのリズミカルなシェイクを音頭に、皆笑顔でナイトクラブのようなテンションを現した会場。カクテルを共通言語に一体となったバーテンダーたちを見ながら、これから焼酎カクテルが日本でブームになっていくことに期待が膨らむ一夜であった。
セミナー主催:
九州4県合同焼酎プロジェクト(鹿児島県、宮崎県、大分県、熊本県)
取材協力:
児島麻理子 氏(Instagramアカウント)
セミナー会場:
GOLD BAR AT EDITION
東京都港区虎ノ門4丁目1−1 東京エディション 1階
TEL 03-5422-1600
アクセス
日比谷線神谷町駅 徒歩4分
営業時間
火~木 18:00~24:00
金・土 18:00~26:00
定休日
日・月曜定休
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